こけだま

     大楠 翠

 

かなしいとき

さみしいとき

やるせないとき

 

水を張ったバケツに

そっと落とすこけだま

 

水をふくんだ

こけだまは

うるおって

いちにちのしまいに

ぼくのこころを

まるくしっとりと

落ち着かせる

| 木曜会(編集委員) | 00:02 | comments(0) | - | ↑TOP
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祖父の笑顔が嬉しくて

          宮中雲子

 

漁でとってきた帆立貝の殻で

祖父はお玉じゃくしを作った

 

小割にした竹に

帆立貝の殻を

針金でくくりつけただけのお玉じゃくし

竹筒のしゃもじ入れに

いつも二,三本立ててあった

 

貝殻は浅く 

汁に浮いた豆腐は

すっと脇へ逃げる

ちらした刻みねぎも

何度も掬って 

やっと得られるものだったが

祖父の笑顔が嬉しくて

好んで使っていた

 

祖父の漁の誇りだった

帆立貝の殻のお玉じゃくし

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四つ目で見れば

       渡辺恵美子

 

黒板の字が見えにくくなったのに

近視だと思いたくなくて

近視だと思われたくなくて

がまんしてた

 

がまんできなくなって

メガネ屋さんに行ったら

すぐ視力検査

メガネをかけた方がいいですね

いろんなレンズで

見え方を調べてくれた

 

小さい字もはっきり見えるし

遠くを見てもボンヤリしない

 

二つ目より四つ目がいい

まわりが

明るく見えるようになった

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涙がぽわっ

      宮中雲子

 

冷たい外気に刺激されて

涙がぽわっ

 

シャボン玉が

目にくっついたようで

視界がぼやける

 

何か悲しいことがあったかと

問いかける人もいない散歩道

 

一人歩きの気楽さが

また一歩

涙の向こうへ歩みを誘う

 

| 木曜会(編集委員) | 10:59 | comments(0) | - | ↑TOP
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あなたは毬

     大楠翠

 

あなたは毬

独りきり

わたしのこころを

占める毬

 

あなたは毬

ひとりでに

わたしのこころで

跳ねる毬

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二羽のとんびに

       宮中雲子

 

大きく羽を広げて飛ぶ

二羽のとんび

朝一番 海の上の空を

我が物顔に悠然と

 

この町で生まれ育った母と私も

共に 目の前のとんびのように

自在に暮らしていた

 

とんびに母と私の姿を重ね

もう一度

あの頃のようであったらと思うが・・・

 

今年 母は三十三回忌

 

打ち消すことの出来ない

あの世と この世の隔たり

 

 

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明治生まれの母

        渡辺恵美子

 

母は夫に仕え従う女性だった

母に おねだりしても

“おとうさんに聞いてからね”

       と必ず言った

父に言えば駄目と言われるから

母に言っているのに

“おかあさんは どう思うの?”

       と聞きたかった

 

父の死後

 何でも決めてくれる人を失って

 母は 一体どうするのだろう?

 まだ大学生だった私は

 退学せざるを得ないと覚悟した

 

私の心配をよそに

母は誰にも頼らなかった

明治生まれの母の本当の姿を

垣間見る思いだった

 

 

 

 

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ありがとうとさようなら

          宮中雲子

 

宮中雲子音楽祭と 私の命と 

どちらが先に終りを迎えるか

その気がかりは

ずっと私の心にあった

 

コロナ禍で四回パス

今年 二十三回目を開催

それが最終回に

 

音楽祭を支えて下さった方々の

高齢化も然ることながら

私も八十八歳

一人旅は覚束なくなってきた

 

私の詩が合唱曲になり

課題曲として歌われ

三瓶の町に響く

それが最後となる今年

続けてもらった感謝を

皆さんに 直に伝えることができる

 

ありがとう

さようなら宮中雲子音楽祭

| 木曜会(編集委員) | 00:03 | comments(0) | - | ↑TOP
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かあさんの字

       渡辺恵美子

 

小包に

必ず入っている母からの手紙

達筆(?)すぎて読みにくい文字

自己流の草書

 

 恵美ちゃん元気?

 母は元気です

 寒くなったから かぜをひかないように

 うがいと手洗いを忘れないで・・・

電話で聞いているのと ほぼ同じだから

何とか わかる

 

もっと 読み易く書いて とは言わない

これは かあさんの字

かあさんしか書けない字

| 木曜会(編集委員) | 00:02 | comments(0) | - | ↑TOP
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敬老の日の贈り物

         宮中雲子

 

暖房の熱に耐えきれなかったか

連なり咲いた花を

次々落とした胡蝶蘭

釣り竿のような三本の茎に

それぞれ萎んで一つづつ

 

敬老の日から二か月

濃いピンクの胡蝶蘭は

贈り主の思いを

伝え続けてくれていた

 

一番きれいだった日の華やぎも

近づく別れの淋しさも

心にしっかり貼り付ける

| 木曜会(編集委員) | 00:03 | comments(0) | - | ↑TOP
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