二月の雪

       大野悦子

 

二〇一一年二月一日

北陸地方は大雪

雪に見舞われた父の葬式

 

「年の離れた弟が先に逝くのは淋しい」

九二歳のおかあさんに泣きつかれ

途方に暮れた純ちゃん

九二歳の涙に根負け

車椅子のおかあさんといっしょに

顔を見せてくれた

 

若い日の父を

「おにいちゃん」と慕って

兄弟のように育った甥っ子姪っ子たちにも

見送くってもらった父

よかったね・・・

しあわせな父

 

ハラハラドキドキさせられた雪

父は

天に召されても忘れられないように

大雪の日を選んだ・・・

父の葬式は家じゅうの語り草

 

           インターネット木曜手帖

           令和六年二月

 

*コメント         宮中雲子

 大雪で、お父様のお葬式を思い出しましたね。

よく書けているのですが、2節の登場人物の関係が

知らない者にとっては、??でした。作者のお父さんと

ここのお母さんはごきょうだい。として、純ちゃんとは?

そこで、作者にきいて、整理してみました。わかりにくい

2節だけ、改めてお示しします。

 

「年の離れた弟が先に逝くのは淋しい」

九二歳の母親に泣きつかれ

途方に暮れた長女の純ちゃん

その涙に根負けして

車椅子の母親といっしょに

顔を見せてくれた

 

こうすると、かなりはっきりすると思います。

 

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年の始めに

      大野悦子

 

一月一日の夕方

緊急地震速報アラームが鳴った

テレビもスマホもいっせいに

 

富山県に震度5強の地震

 

孫が帰ったあとの静けさの中

こたつで

お正月の余韻に浸っていた私は

今までに感じたことのない揺れに

身震いした

横になっていた夫は飛び起きた

私も夫も

とっさに座布団で頭を守った

長く感じた二分間

それからは

余震におびえ

そのたびに座布団を頭へ

 

スマホの呼び出し音

「蒼もみんなだいじょうぶだよ」

元気な声に我に返った

孫たちの暮らす高岡市も震度5強の揺れ

いつもより

早めの帰宅で難を逃れた幸運

感謝の気持ちで始まった令和六年

                 

        インタネット木曜手帖

        令和六年一月

 

 

*コメント       宮中雲子

 大変な年の始めでしたね。皆さんご無事で何よりでした。

地震の時の不安、その後のスマホでの知らせに安堵したこと。

真に迫ってきます。いい作品に仕上がっていると思います。

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鍋の話

      大野悦子

 

日曜日の朝早く

ご近所さんから頂いた採れたての大根

 

料理好きの夫が

夕飯のメニューに「ブリ大根」を選んだ

料理本に忠実な夫は

ブリのあらと乱切りにした大根を

大きめの鍋に仕込んだ

若いときなら

夫が鍋に仕込んだ瞬間

鍋でひともんちゃくあった

私が育った家には魚専用の鍋があった

それが当たり前だったせいか

「魚は魚専用の鍋を使ってほしい」と

私は譲らなかった

夫は聞こえないふりをして知らん顔

 

四十年あまりの結婚生活

いつしか

私は

どの鍋で魚料理が始まってもおかまいなしだ

 

台所で

キッチンタイマーが鳴った

 

                インタネット木曜手帖

                   令和五年十二月

 

*コメント     宮中雲子

 家庭生活の一齣をうまく切り取ってうたっておいでです。

鍋でひともんちゃくあった・・・で一区切りしましょう。

魚にはそれ専用の鍋を使ってほしい・・・というところ、

言っているのは私とわかりますので、私はカット。

今では、どの鍋で魚料理が始まってもおかまいなしだ・・・は

おかまいなしに・・・に。更に、結びに何か欲しいので一行加え

ました。

 

     鍋の話

           大野悦子

 

日曜日の朝早く

ご近所さんから頂いた採れたての大根

 

料理好きの夫が

夕飯のメニューに「ブリ大根」を選んだ

料理本に忠実な夫は

ブリのあらと乱切りにした大根を

大きめの鍋に仕込んだ

若いときなら

夫が鍋に仕込んだ瞬間

鍋でひともんちゃくあった

 

私が育った家には魚専用の鍋があった

それが当たり前だったせいか

「魚は魚専用の鍋を使ってほしい」と

譲らなかった

夫は聞こえないふりをして知らん顔

 

四十年あまりの結婚生活

いつしか

私は

どの鍋で魚料理が始まってもおかまいなしに

 

台所でキッチンタイマーが鳴った

平穏な暮らしがなにより

| 木曜会会員(コメント) | 21:19 | comments(0) | - | ↑TOP
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清水の舞台で

        大野悦子

 

ご主人を亡くした友人を誘って

京都旅行を思いついた

福井の街で

友人を心配しているヒコちゃんにも声をかけ

京都駅で待ち合わせた

 

真っ先に訪れた清水寺

初めて清水の舞台に立ったのは高校二年生

「大人になってまた三人で来たいね・・・」と

約束を交わした場所

あれから五〇年・・・

一六歳で知り合った私たちは

長い歳月を経て約束を果たした

 

若い人たちをまねて

顔を寄せ合ってスマホで自撮り

女子高生に戻ったようで

楽しくて可笑しくて

涙が出るほど笑った

 

友人も

今日だけは亡きご主人を忘れて

みんなと大はしゃぎ

ご主人は喜んでいるよ

きっと

 

       インターネット木曜手帖

       令和五年一一月

 

 

*コメント      宮中雲子

 ご主人を亡くした友人を誘っての京都旅行。

1節が説明になっていて、散文的なのはいかが?

ここで書きたかったのは、なんでしょうか。

かつて一緒に行った3人の同級生との、修学

旅行。そこでの約束が果たせた満足感ではな

いでしょうか。清水寺での感激には、あなた

にしか書けない思いがあるはずです。

そのあたりが、もっと書けているとよかった

ですね。

 

  清水の舞台で

         大野悦子

 

ご主人を亡くした友人を誘って

同級生のヒコちゃんと三人で京都旅行

 

真っ先に清水寺へ

高校2年生の時 

修学旅行で初めて訪れて感激

「大人になって また三人で来たいね」

と約束を交わした場所

あれから五十年

長い年月を経て 約束を果たした

 

若い人たちをまねて

顔を寄せ合ってスマホで自撮り

女子高校生に戻ったようで

楽しく可笑しくて

涙が出るほど笑った

 

友人も 

ご主人を亡くした悲しみを忘れて

みんなと大はしゃぎ

ご主人も喜んでいるよ

きっと

 

 

 

 

 

 

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私の宝物

          大野悦子

 

幼稚園の先生になったとき

お世話になった園長先生の訃報が届いた

 

学校を卒業したばかりの私は

園長先生に叱咤激励される毎日

学生気分は一日で消えた

それでも

子どもたちと過ごす日々は楽しかった

 

最後にお会いしたのは

 

たしか 十数年前

園長先生のお祝いの会だった

私の名前を呼ぶ聞き覚えのある声

振り向いた私に手招きする園長先生

自分でも信じられないほど

軽やかに歩み寄っていった

挨拶を交わし

幼稚園で過ごした歳月に感謝を伝えると

「初めて社会に出る娘さんには責任があるから

きびしいことを言いました

ごめんなさいね」と

にっこり・・・

 

私の心に

忘れられない笑顔を残して逝かれた

 

*コメント         宮中雲子

 初めて幼稚園に就職したときの園長先生と、

少しぎくしゃくした関係だったようですが、

最後そのだかまりも消えて、「私の心に 

忘れられない笑顔を残して逝かれた」という、

このむすびが、とてもいいですね。

 

| 木曜会会員(コメント) | 00:28 | comments(0) | - | ↑TOP
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プチ同窓会

        大野悦子

 

静岡の街に暮らす同級生の尚ちゃんと

名古屋で待ち合わせをした

 

富山から

高速バスで名古屋駅に到着した私を

尚ちゃんは笑顔で迎えてくれた

その傍らにもうひとつの笑顔

「もしかして メグ」

「ハイ 大阪から飛び入り参加です」

人を驚かせることが好きだった中学生は

大人になっても変わっていなかった

三十代を過ぎたあたりから

年賀状が途絶えて三〇年あまり

ずっと会いたかった

 

レストランの個室に案内されるやいなや

あふれだす思い出

記憶をたどりながら大笑い

ひとしきり笑ったあと

メグはあっけらかんとつぶやいた

「シンキンコウソクで夫が亡くなったの」

年を重ねた中学生は無口になった

「そんな困った顔しないで 記念写真を撮るわよ」と

メグはスマホのカメラを向けた

ぎこちない笑顔を何度も撮りなおし

とっておきの一枚になった

                 

                        インターネット木曜手帖

            令和五年九月

 

 

*コメント   宮中雲子

 思いがけない人が加わったのは。素晴らしいこと

ですね。その喜びが伝わってきます。

テーマがうまく絞り込まれていますし、いいですよ。

ただし、2節の7行目「年を重ねた中学生は無口に

なった」ですと、誰が?という疑問がわきます。

ご主人の訃報を聞いた二人が無口になったという

ことでしょうから、ここは複数にしてほしいですね。

「中学生たちは」とするだけでいいのです。

今一つ、そのすぐあと「メグはスマホのカメラを

向けた」は「私たちに」と入れると、更にすっきり

すると思います。

 

直し部分

年を重ねた中学生たちは無口になった

「そんな困った顔しないで 記念写真を撮るわよ」と

メグは私たちにスマホのカメラを向けた

ぎこちない笑顔を何度も撮りなおし

とっておきの一枚になった

 

 

 

| 木曜会会員(コメント) | 19:33 | comments(0) | - | ↑TOP
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少女の挑戦

      大野悦子

 

公共料金の支払い用紙を持って

コンビニのレジの列に並んだ

 

胸に見習い中と書かれた名札

私から見たら孫のような少女

バーコードを読み込んで流れは順調だった

ところが

私が差し出した支払い用紙を見て

顔色が変わった

必死に記憶をたぐりよせて

受領印を押そうとした

「押す前にお金を数えて!」

「ハンコの向きを確かめて!」

「お釣りを渡すときはお札の向きを揃えて!」

矢継ぎ早に飛んできた先輩の声

見ていないようで見ていた先輩

 

あっけにとられて

私と少女は苦笑い

あんがい あなたは

見かけよりもタフかもしれないわね

今度は

夏の新作スイーツを求めて立ち寄ってみよう

 

                インターネット木曜手帖 

        令和五年八月

 

 

*コメント         宮中雲子 

コンビニのレジで、まだ見習中の女の子の姿に

思いを寄せての作品。

公共料金の支払いは馴れない事だったのでしょう。

教わったことを必死に思い出そうとしている姿が

健気ですね。先輩の言葉にもめげずがんばってい

るのを見て、あなたの応援したい気持ち、よく

わかります。

けれど、少女というと5,6歳から、15,6歳くらいとか。

コンビニで働いているのですし、少女と言ってしま

うのは疑問です。どちらかというと、出来事を

追いかけていらして、ここぞというテーマを、

深く掘り下げていく詩のあり方としては、

作品として、どうかと思います。

 

| 木曜会会員(コメント) | 21:21 | comments(0) | - | ↑TOP
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鬼ごっこ

           大野悦子

 

白内障の治療を続けて五年目の春

「そろそろ手術を考えましょう」と

言われた

 

どおりで

蒼を見失うことが多くなったわけだ

公園で鬼ごっこ

ジャンケンで負けた私は鬼

蒼は一目散に逃げる

視力の衰えた私の目は

的外れな方を探していた

「ばあちゃん こっちだよ」と

とんでもない場所から私を呼ぶ

いつの間にか

私のうしろに忍び寄り仰天させる

わざと気づかないふりをしている・・・

蒼は

それがばあちゃんの作戦だと思っているようだ

 

手術をすることに決めた

鬼ごっこをガチで楽しむためにも

手術を乗り越えよう

蒼の笑い声は

手術の不安を吹き飛ばしてくれる

 

注 「ガチ」とは今どきの若者言葉の一つです。

本気で、真面目に、真剣にという意味です。

相撲界の隠語「ガチンコ勝負」(真剣勝負)

から来たとの説があるそうです。

 

私は「本気で」のつもりで使いました。

 

       インターネット木曜手帖

       令和五年七月

 

*コメント     宮中雲子

 白内障の手術と,蒼君とのかかわりがうまく

絡み合わさって、いい味を出しておいでです。

“ガチ”というのがわからなくて、ご本人に

教えていただきました。”本気で“という意味で

使ったそうです。新しい言葉遣いで、一般的に

分からない言葉には、注を付けておくといいですね。

 白内障の手術は、もう終わられたそうで、

今頃は蒼君とガチで遊んでおいでの事でしょう。

| 木曜会会員(コメント) | 22:32 | comments(0) | - | ↑TOP
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無人の駅舎で

      寺澤朋子

 

友人を待つ秩父線の無人駅

駅舎の中は待合所

天井から吊りさがっている電球には

笠が付いている

まさに昭和の時代のそのもの

 

見上げたら

小さい電気笠に

ツバメの巣

卵を温めているのだろうか

巣から尾がはみ出している

 

ピクピク左右に振っている尾は

とてもリズミカル

しばらくして 一羽が飛びたった

穏やかに過ぎる時

 

電車が静かに到着した

| 木曜会会員(コメント) | 00:02 | comments(0) | - | ↑TOP
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こんな日もあるさ

                大野悦子

 

三重県の遊園地で地震速報を知った

令和五年五月五日

午後十四時四二分石川県珠洲市で震度6強の地震

富山県は震度4

スマホ画面を見つめる息子は

蒼とふざけっこする顔をしまい込んで

すっかり公務員の顔になった

「職場に戻る」と言い残して

三時間あまりの道のりを帰って行った

 

震度1の遊園地は

安全が確認されると賑わいを取り戻した

蒼の喜ぶ顔が見たくて

苦手なジェットコースターに挑戦するも

悲鳴を上げて蒼に笑われた

蒼の笑顔は私の心をなごませ

息子の心配も忘れられた

 

深夜

宿泊しているホテルに息子が戻ってきた

息子は

蒼を抱きかかえるようにして眠りに落ちた

 

・・・寝息を聞きながら

長かった一日をおさらいした

(無事でほんとうに良かった 良かった・・・)

             インターネット木曜手帖

                          令和5年6月

 

*コメント      宮中雲子

 大変な一日でしたね。私も無事で終わって

よかったと、胸をなでおろしました。

作品で言うと、2節の終わりあたりから、疑問が

生じましたので、少し手を入れました。

2節から後だけ、次に写します。

 

 

震度1の遊園地は

安全が確認されると賑わいを取り戻した

蒼の喜ぶ顔が見たくて

苦手なジェットコースターに挑戦するも

悲鳴を上げて蒼に笑われた

蒼の笑顔は私の心をなごませ

職場に戻った息子への

心配も忘れられた

 

深夜

宿泊しているホテルに

息子が 無事戻ってきた

息子は蒼を抱きかかえるようにして

眠っている

 

長かった一日がやっと終わった

みんな無事で良かった

ほんとうに良かった

                     

| 木曜会会員(コメント) | 16:40 | comments(0) | - | ↑TOP
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