ドライブごっこ
土屋律子
まるいおぼんを
ハンドルにして
へやの中で
ドライブごっこ
パパのあしの
あいだのトンネル
くぐって
へやの中を
ぐる ぐる
はしる はしる
ママのおひざで
ひとやすみ
あーあ つかれたー
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雪吊りの大松
大楠翠
天を衝き 枝を張る
なんて雄雄しい黒松だろう
見物客は
驚き 溜息をつく
大松は私に語りかけてくる
「気概をもて 俺のようになれ」
けれど雪吊りの縄を見て
私は思った
強い大松でさえ
人手を借りずにはいられないではないか
と
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蝋梅
大楠翠
「庭に出てみなさいよ」
母の声に押されて
わたしは渋々庭の片隅へ
視界に満開の蝋梅が飛び込んできた
1メートル 2メートル 3メートル
近づいたのではない
怖ず怖ずと後退りしたのだ
甘美に漂う香を選ぼうか
あるいは
遠目に
その鮮やかな全体を堪能すべきか
わたしはまごつくしかなかった
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こたつ
ヒメぱせり
こたつは あったかいね
みんなは ぬくぬくしに
こたつに 足を入れにくる
そして こたつの心も
ほかっと ぬくもる
こたつは あったかいね
だけど だれもいないと
こたつは つめたいだけの台
だから こたつの心も
しーんと ひえる
こたつは あったかいね
一度はいると こたつから
みんなは なかなか出られない
それは こたつの心が
ひきとめるからよ
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蛙の子は蛙
上野雅子
隣の部屋から彰子の声がする
「学校は幼稚園と違うでしょ」
「勉強する時はふざけちゃダメ」
「うん」
「はいでしょ」
「はい」
小学校一年生の稜平が神妙に座っているらしい
「先生が稜平君はとっても良い子だけれど
授業中ふざけてばかりで困ると言っていた」
「先生を困らせるんじゃ ママとっても悲しい」
「わかった」
「わかったじゃない はいでしょ」
「はい」
私は心の中でくすくすと笑った
彰子が二年生の時先生に呼ばれた
「彰子さんは本当に優しくて良い子だけれど
学校を社交場と間違えていて困る」と
蛙の子は蛙
「ママも二年生の時 先生に同じこと言われたよ
稜平 ママとそっくり」
私は良平の耳にそっと耳打ちして
二人で声を殺してして笑った
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しあわせのワイルドストロベリー
森 路子
友人に贈った
ワイルドストロベリーの苗は
花が咲くと
しあわせが訪れるという
今ごろ 彼女の庭では
妖精たちが
花を咲かせる準備を
してくれていることでしょう
もしかしたら
彼女が気づかないだけで
もう花を咲かせているかもしれません
だって うっかり見のがしてしまうほど
小さな小さな花ですもの
でも しあわせって
きっと そういうもの
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〈光る泥だんご〉
森 路子
幼稚園の庭で
こどもたちが
<光る泥だんご>をつくっている
泥を練って 丸めて
削って 足して
また丸めて
やがて ぴかぴか光りだすまで
こどもたちは
一心に
泥だんごを磨いている
まるで じぶんのこころの珠
磨いてるみたいに
小さな両手のなかに
泥だんごを包んで
愛おしそうに なでている
*〈光る泥だんご〉・・・固有名詞
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プーケットのぞう
おばらいちこ
タイのプーケットのぞうは
まだちいさいのに
なまえが「ジャンボ」
プーケットのぞうは
せなかに こどもをのせてさんぽしていて
プーとおならをしたよ
プーケットのぞうのあとを
こどももおとなも
プ・プ・プーとわらいながらついていく
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馬の目を見るたび
森 路子
坂の向こうの馬小屋で
いつも会う馬たちが
幸せなのかどうか
幸せなはずがないと
馬の目を見るたび
悲しくなるのです
黒いたてがみをひるがえし
雄々しく駆けぬけた大草原
ゆったりと尾を風になびかせ
悠々と歩いた大地
静かに身を休めた
森の奥の湖のほとり
今はもう遠い景色を
深く沈ませている
馬の目を見るたび
悲しくなるのです
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しんみりと
おばらいちこ
四歳の孫が読める字は
しんみりとだけだそうだ
だから手紙にしんみりとを入れてほしい
と娘からの電話
ジイジとバンバは
考えて 考えて
長野は雪がしんみりとしんみりと
ふりつづいていますか
夜はしんみりとしんみりとふけていますか
しんみりとしんみりとが
たくさん入った手紙を書きました
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